あえて匿名で書くブログ

実名では書きにくいことを"あえて匿名"で書いていきます。政治、社会問題が中心となります。

牛乳石鹸ショートムービー炎上の記録

目次

 

【概要】

  • 最初に
  • あらすじ
  • 炎上の経緯
  • 炎上に対する反応
  • ワイドショーでも取り上げられる
  • 牛乳石鹸共進社株式会社の回答

【詳述】 

  • なぜ炎上したか?
  • 炎上の発端
  • 批判一色の状態に変化
  • 変化はなぜ起きた?
  • 批判が批判を呼ぶ
  • 論点整理
  • 男性・女性という対立軸
  • 真の対立軸
  • 過去の事例
  • あとがき
  • 参考文献 

 

(この記事を読み終わるまでの時間:約20分)

 

最初に

2017年6月15日に父の日に合わせて公開された牛乳石鹸のウェブムービーが、公開からちょうど2ヵ月後の8月15日に炎上しました。いったい何が起きていたのか?まずは以下の動画をご覧ください。

 

www.youtube.com

 

動画が見れない環境の方や、すでに削除されてからこの記事をご覧になられている方のために簡単に内容をご紹介します。

 

あらすじ

この動画の主人公は30代後半のサラリーマン、都心の企業で働き、郊外のマンションに妻と小学生の息子の3人で暮らしています。ある朝、ゴミ袋を持って出社しようとする主人公に妻が声をかけます。「帰りにケーキ買ってきて♪」今日は息子の誕生日なのでした。主人公は「はーい」と言って家を出ます。いつもと同じ日常の風景、仕事中、報告を怠った後輩が上司に叱責されています。そこへ妻からのLINE「プレゼントもお願い!(グローブのイラスト)」しかしそれに気をとられる間もなく別の後輩が主人公に書類のチェックを求めます。無造作に置かれた携帯の待ち受け画面には家族の写真。不意に自分の子供時代を回想する主人公。「あの頃の親父とはかけ離れた自分がいる、家族思いの優しいパパ、時代なのかもしれない、でも、それって正しいのか?」心の中で呟きます。帰り道、走ってグローブを買いに行く主人公、日は沈みかけ、両手にプレゼントとケーキを持って歩いていると、肩を落として歩く後輩の姿が目に止まります。思わず後輩を居酒屋に誘った主人公「俺も昔、怒られてたもんね」と、後輩を励まします。そこへ妻からの着信「出なくて大丈夫ですか?」と後輩、「んー、うん、大丈夫」後輩に気を使わせないためか、主人公はここで電話に出ないという選択をします。「先輩、今日はご馳走さまでした」すっかり元気を取り戻した後輩、しかし家に帰ると案の定、妻はご立腹「なんで呑んで帰ってくるかな…」うつむき無表情の主人公「風呂入ってくる」と風呂場へ。湯船に浸かり、子供のころ父親の背中を流していた自分を回想する「親父が与えてくれたもの、俺は与えられているのかな」そんなことを思いながら風呂場を出る「さっきゴメンね」と妻に謝る主人公。妻も気を取り直してリビングにいた子供を呼び寄せる、何時間か遅れの誕生日パーティー。そして次の日、いつものようにゴミ出しをする主人公。バスの中、昨日より少し明るく見える表情。ここで画面が切り替わり「さ、洗い流そ」のコピーと、牛乳石鹸のロゴ。(2分44秒)

 

炎上の経緯

この動画は父の日の3日前、6月15日に公開されました。当初はTwitter上で主演の新井浩文氏のファンと思しきユーザーの好意的な反応が数件ある程度で、特に目立った動きはありませんでした。ところが、ちょうど2ヶ月後の8月15日、あるTwitterユーザーによってこの動画が発見され、批判的な意見と共にこの動画が拡散されます。さらにそれを見たフォロワーからも批判的な意見が寄せられ拡散。その日のうちにこの動画に対する批判的な意見が相次ぐ事態となりました。これにより"牛乳石鹸"というキーワードはYahoo!で8月15日のトレンド入り(最高順位4位) を果たします。さらにこうした事態が複数のネットニュースで取り上げられると、逆に主人公の行動に理解を示す意見が相次ぎ、賛否が渦巻く”炎上”へと発展していったのでした。

 

トレンドランキング

  

炎上に対する反応

こうした状況に対し、個人ブログや各分野の論客による分析記事、有志によるまとめサイト等が乱立し、多くの人を巻き込んだ社会的な議論へと発展していきます。炎上から1週間後には公式動画の総再生回数が150万回を超え、Yahoo!ニュースのコメント欄には賛否のコメントが殺到しました。

 

ブログ

tensaychang.hateblo.jp

www.keyumino.com

www.chutohanpamansion.net

www.huffingtonpost.jp

 

論客による分析

kikitimes.com

mistclast.hatenablog.com

agora-web.jp

aiegc.hatenablog.com

牛乳石鹸CMと白人至上主義暴動の共通点とは?

 

まとめサイト

togetter.com

togetter.com

togetter.com

 

ワイドショーでも取り上げられる 

こうした状況をテレビ局も見逃さず、テレビ朝日のモーニングショー(8月22日)や、フジテレビのバイキング(8月24日)等でも相次いでこの話題が取り上げられ、 ウェブ用に製作されたはずのショートムービーは、期せずしてテレビでも放映されることになります。

 

動画

www.youtube.com

www.youtube.com

 

記事

matomame.jp

headlines.yahoo.co.jp

headlines.yahoo.co.jp

 

牛乳石鹸共進社株式会社の回答

一連の騒動に対しハフィントンポスト紙が8月16日に牛乳石鹸共進社株式会社に問い合わせをしたところ、8月18日付で以下のような回答がありました。

 

この度は、お問い合わせを頂きまして誠にありがとうございます。

お問い合わせいただいた動画は、家族や息子のことを大切に思いながらも、

時に迷いながら、それでも前を向いて毎日頑張っている父親の姿を描いています。

皆様からいただいた全てのご意見を有難く受け止めております。

今後の参考にさせていただきます。お問い合わせ頂き、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

 

牛乳石鹸共進社株式会社

 

www.huffingtonpost.jp

 

また、主人公役の新井浩文氏もTwitterで以下のようなコメントを発表しています。

 

https://twitter.com/araihirofumi/status/897646940464218113

 

なぜ炎上したか?

本来、ウェブムービーはTVCMと違い自発的にアクセスしない限り人の目には触れないもののはずです。また、たとえその内容を不快に思ったとしても、その意見をTwitter上に投稿し、それを見た人がさらにその動画を観て批判的な意見を書き込む・・・といった一連の所作が8月15日という特定の日に集中したのは何故でしょうか?

 

炎上の発端

8月15日のTwitter牛乳石鹸というキーワードで検索すると、情報の拡散を中心的に担っていたのは以下のツイートであることが分かります。

 

大量の拡散に繋がったツイート

牛乳石鹸見た見た。「風呂はいってくる」で「えええええ」って声でた(笑)。最後の「さ、洗い流そ」でもっかい「えええ」。

こんな大事なことを何も説明しない旦那さんって、たぶんもっと些細な日常の、たくさんのことも説明してないだろう。https://t.co/KqwpmPAshf

— 岸政彦 (@sociologbook) 2017年8月15日4時6分

(参考リツイート数:211回)

https://twitter.com/sociologbook/status/897459458774777856

 

炎上気味の牛乳石鹸CM、まあ人が言う通り色々ダメなんですけど、なにしろ新井浩文さんなのでもっとベロベロに酔って帰ってきたうえで部下まで家に連れてきて文句を言う妻に容赦なくDV、子供は泣き叫び部下はうろたえ、ある程度暴力で発散した後に返り血を「さ、洗い流そ」のバージョンが見たいです

— 夜空の能町みね子 (@nmcmnc) 2017年8月15日8時6分

(参考リツイート数:3964回) 

https://twitter.com/nmcmnc/status/897519911286652928

 

https://twitter.com/c_ssk/status/897251315851472897

 

https://twitter.com/deviltruck2010/status/897260095104405504

 

https://twitter.com/muzuki_sakae24/status/897275258121535489

 

https://twitter.com/chang_minori/status/897286665667887104

 

togetter.com

 

特に批判的と思われる後の4件のツイートは14時19分から16時39分までの140分間というごく短い間に投稿されています。そしてその日のうちに大量にリツイートされ情報が拡散されていきました。

 

批判一色の状態に変化

8月15日の時点で批判一色だったTwitter上の投稿も、8月16日以降、複数のネットニュースがこの騒動を取り上げたことにより事態が一変します。動画を擁護する複数のコメントがYahoo!ニュースのコメント欄のトップを占めるようになったからです。

 

Yahoo!ニュースのコメント欄

そんなこと批判しあって一体何になるのか?観たくなければ観なければいいし
買いたくなければ買わなければいい、たったそれだけのこと

何も問題ないと思うが 色々なとらえ方があると思うな騒ぐ程のことでもない

ホントわからない。ドラマ仕立てのCMでしょ。
明らかな差別とかはいけないけど、色々なストーリーがあっていいでしょ。
CMと本当のドラマは違うかもしれないけど、それなら、不倫はだめだと言いながら、不倫ドラマはいいの?
人殺しはだめだけど、殺人事件のドラマはいいの?
なんでもかんでも批判ばかりではつまらないものばかりになってしまう。もうそうなってしまっているけど。

CMと言えどドラマでしょ。こういう二律背反に苦しむところから物語が生まれるんだと思うけど。

そういえば昔はこういうドラマあったよね。恋人と約束してたのに会社の残業や接待が長引いて会えない、そしてだんだんと二人の間に距離ができて・・・さあ、どうする的な。見てるほうは恋人に感情移入したり、男に感情移入したり。

最近はそういうドラマの設定もないのかしら?

 

headlines.yahoo.co.jp

headlines.yahoo.co.jp

 

変化はなぜ起きた?

Twitterとネットニュースの情報の広がり方には違いがあります。まずTwitterで発信される情報は、興味や意見の一致する"フォロワー"を対象としていることが特徴です。そのため当初(8月15日)は、同じ興味や意見の一致する人にのみに情報が拡散され、批判的な意見が集中したものと思われます。それに対しネットニュース(8月16日以降)は、不特定多数の人に情報が拡散されたため、多様な意見が寄せられ、批判一色の状況に疑問が呈されたと考えられます。

 

ネットニュース

www.j-cast.com

www.huffingtonpost.jp

news.careerconnection.jp

 

批判が批判を呼ぶ

しかし批判に懐疑的な見方をする意見が増えてくると、それが炎上の燃料となりさらに批判的な投稿が増えていくという状態に陥っていきます。

 

Yahoo!ニュースのコメント欄

 とりあえずは、コレコレこういう状態なんで帰り遅くなるけど何時くらいに帰るよ~、と先に連絡入れておいてくれれば子供にも説明できるし、お父さん誕生日忘れてないよ、ケーキもプレゼントも用意してくれてるよって、フォローできたし。後で何度も電話することも無かっただろうに。

呑んできて風呂入ってそれからお祝いって、一体何時なんでしょう?
子供に不安感与えて夜更かしさせて、親に振り回されている子は、どこで何を洗い流せば良いんだろう

CM見たけど、状況判断に乏しいお父さんというか…後輩を飲みに連れていくにしても、奥さんに何の連絡もせず当日行く意味がわからんし、ケーキが痛むかもとか思わないのかな?

そんなに家庭が重荷なのか、これがこのCMを見た感想です。これが母親が同じ行動とったら、それでも母親かよ!なんて言われそうです。
その日に起きた自分にとって嫌だったことを洗い流すんでしょうか。だとしたら妻と子供がかわいそうです。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

論点整理

比較的多くの人に支持されている批判的な意見を要約すると「女性の視点が欠けている」ということを問題視しているように見えます。それに対し懐疑的(擁護的)な意見を要約すると「ドラマ上の演出に過ぎないことを批判するのはおかしい」ということになりそうです。では、動画を配信・製作した側はどのように考えていたのでしょうか?

 

配信者(牛乳石鹸共進社株式会社)の意図

父と子の絆。とある男のなんでもない1日の物語。昔気質で頑固な父親に育てられ、反面教師にすることで今の幸せを手にした彼。「家族思いの優しいパパ」。でも、このままでいいのだろうか。ふとそんな疑問を抱く。それでも、お風呂に入り、リセットし、自分を肯定して、また明日へ向かっていく。がんばるお父さんたちを応援するムービーです。

https://www.youtube.com/watch?v=CkYHlvzW3IM&feature=youtu.be


製作者(電通)の見解

動画は、どこにでもいる平凡な会社員のお父さんの一日と、淡々とした日常の中の“親子、絆、子育て”といったお父さんの悩みを描いている。

頑固な父親に育てられた主人公は「家族思いの優しい父親」になっている。息子の誕生日をきっかけに“このままの自分、父親でいいのか”という疑問を抱く。そんな気持ちを引きずりながら風呂に入り、また明日へ向かっていく。キャッチコピーの「さ、洗い流そ。」は、主人公のように子育てに悩みながらも毎日を頑張るお父さんへの応援メッセージだ。特別な出来事もなく展開するストーリーだけに、現代の「父性」とは何かを深く考えさせられる。

 

dentsu-ho.com

 

配信者、製作者という違いはありますが、動画には共に「頑張るお父さんを応援する」という意図が込められていたことを示唆しています。

 

女性・男性という対立軸

また 「女性の視点が欠けている」と聞くと、その意見は女性が投稿しているように思われがちですが、実際には男性も同様のコメントを投稿しており、また女性であってもこの動画を「理解できる」とする男性の意見に共感する投稿が見受けられることから、この問題で対立軸とされている男性・女性という構図は、必ずしも正確ではない可能性があります。

 

まとめサイト

togetter.com

ブログ

suisa.hatenablog.com

 

真の対立軸 

今回の炎上をより詳しく見ていくと、この動画の真の対立軸は「頑張るお父さんを応援する」というコンセプトに対し「不快に感じる人」と「共感する人」の対立と言えそうです。つまり「頑張るお父さんを応援する」という意図自体は、批判的な意見を持つ人にも、共感する意見を持つ人にも伝わっていたということになります。

 

togetter.com

  

過去の事例

ネット上で配信されたショートムービーの炎上事例としては、2015年3月17日公開のルミネ「働く女性たちを応援するスペシャルムービー」が思い出されます(同年3月20日公開中止)。こちらも僅か3日の間に再生回数が約4万6千回(第1話)、約1万1千回(第2話)となり話題となりましたが、直後に批判が殺到し公開中止に追いやられました。

 

動画

www.dailymotion.com

 

この動画は主人公の女性会社員が日常で遭遇しがちな様々な体験をシニカルに表現したものでしたが、第1話で男性会社員が主人公に皮肉を言う場面や、「変わりたい、変わらなきゃ」というコピーが批判の的になったようです。なお、この動画を企画したのは、ルミネの若手女性社員を中心としたグループでした。 

 

あとがき

この作品が炎上したことについて、最初から炎上を狙っていたのではないか?という意見があります。しかし牛乳石鹸のような老舗企業はすでにある程度の知名度があり、ブランドイメージの毀損というリスクを伴う広告は避けようと思うのが普通です。では、今回の炎上は全く想定されていない"事故"だったのでしょうか?確かに結果的に炎上したことについての不備はあったと思います。しかし、近年頻発する炎上のリスクについては企業側も敏感になっており、広告1つにも様々な対策を講じているのが普通です。今回のウェブムービーについても、例えば玄関で夫を見送る場面では、妻が性別役割分業の象徴である専業主婦に見えないようジャケットを着させるという配慮があり、ゴミ捨てや買い物などの家事分担には夫が当たり前のように協力する描写を取り入れ、夫婦が険悪な状態になっても子供の前で口論する描写は避けるなど、様々な炎上対策の"痕跡"が伺えます。そもそもこの作品を父の日に合わせて公開したということ自体が最大の炎上対策だったのかもしれません。しかし、それでも炎上はしました。それは何故でしょうか?この作品は起承転結で成り立っています。夫が後輩を励ますために居酒屋に立ち寄り、妻の電話に出なかった場面がまさに"転"です。もしこのシーンがなければ、単なる日常の風景を描いただけの凡庸な作品に終わっていたでしょう。そうした作品をわざわざ検索して見ようとする人は恐らくそれほど多くはないと思います。しかし今回はその転の部分が論争を生みました。このショートムービーにはメイキング編もありますが、これを見ると実に多くの人たちがこの作品の制作に関わっていたことが分かります。企画やマネージメントに携わった人たちも含めれば、その人数は数十人単位でしょう。果たして何が最善だったのか?皆さんはどのようにお考えになりますか?(了)

 

www.youtube.com

 

参考文献

d.hatena.ne.jp

shibacow.hatenablog.com

anond.hatelabo.jp